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ニューラルネットワークから見たTransformerのアーキテクチュア

この記事からわかること

  • 大規模言語モデル(LLM)は、事前学習と微調整の2段階の学習プロセスを通じて、多様な自然言語処理タスクに対応することができる。

  • GPTのアーキテクチャは、Self-Attention機構、ポジショナルエンコーディング、フィードフォワードネットワークなどの要素を組み合わせることで、文脈に応じた高度な言語理解を実現している。

  • ニューラルネットワークには、入力層、隠れ層、出力層など、様々な種類のレイヤーがあり、それぞれが特定の役割を持っている。

  • トランスフォーマーモデルの各レイヤーは、Self-Attention層、フィードフォワードネットワーク、レイヤーノーマライゼーション、残差接続などの技術を組み合わせることで、長距離の依存関係を効率的に捉え、文脈に応じた高度な言語理解を可能にしている。

  • GPTに代表されるトランスフォーマーベースのLLMは、自然言語処理の分野に大きな変革をもたらし、機械翻訳、文章生成、要約作成など、多くのタスクにおいて優れた性能を示している。

  • 今後もLLMの研究は進展し、より洗練されたアーキテクチャと学習手法の開発により、自然言語処理技術のさらなる発展が期待される。


 

目次


 

1.ニューラルネットワークの概略


ニューラルネットワークは、人間の脳神経回路を模倣したコンピュータシステムである。

基本的な構成要素はニューロンと呼ばれる処理ユニットで、これらが複数の層に組織化されている。


入力層でデータを受け取り、隠れ層で特徴抽出や変換を行い、出力層で結果を出力する。

各ニューロン間の結合の強さを表す重みパラメータが存在し、学習によってこれらの重みが最適化される。

学習の過程では、入力データに対して予測を行い、予測と正解の誤差を算出する。

この誤差を最小化するように、重みパラメータを少しずつ更新していく。

これを繰り返すことで、ニューラルネットワークは与えられたタスクに対して高い性能を発揮できるようになる。

多層のニューラルネットワークを用いることで、より複雑なデータの表現や抽象化が可能となる。

畳み込みニューラルネットワーク(CNN)や再帰型ニューラルネットワーク(RNN)などのアーキテクチャも存在する。


 

2.学習の要素

①事前学習(Pre-training)


  • テキストのエンコーディング: LLMに入力される前に、テキストは通常、トークン化(Tokenization)プロセスを経て、単語やサブワード単位に分割される。このトークン化されたテキストはその後、埋め込み層(Embedding Layer)を通じて数値ベクトルに変換される。このベクトルは、モデルの学習プロセス中にさらに洗練される。

  • 自己教師あり学習タスク: 事前学習段階では、LLMは通常、ラベル付けされていない大量のテキストデータを使用して自己教師あり学習を行う。例えば、マスクされた言語モデリング(Masked Language Modeling: MLM)タスクでは、入力文からランダムに単語をマスク(隠す)し、モデルにそのマスクされた単語を予測させることで言語理解能力を学習させる。

②微調整(Fine-tuning)


  • タスク特化の訓練: 事前学習を経たモデルは、特定のNLPタスク(例えば、感情分析、テキスト分類、質問応答など)に対して、少量のラベル付きデータを使用して微調整される。このプロセスにより、モデルは特定のタスクに特化した知識を獲得する。

  • 出力層のカスタマイズ: 微調整の際には、タスクに応じてモデルの出力層がカスタマイズされることがある。例えば、分類タスクの場合はソフトマックス層が追加され、各クラスに対する確率分布を出力する。

③モデルアーキテクチャのバリエーション


  • RNN(Recurrent Neural Networks): 過去の情報を隠れ状態として記憶することで、シーケンスデータを処理する。しかし、長期依存性の問題や計算効率の問題がある。

  • LSTM(Long Short-Term Memory): RNNの一種で、長期依存性を扱うために設計された。ゲート機構を使用して情報の流れを制御する。

  • GRU(Gated Recurrent Unit): LSTMよりもパラメータが少なく、計算効率が良いRNNのバリエーションである。

  • CNN(Convolutional Neural Networks): 主に画像処理に用いられるが、テキストデータに対しても適用されることがある。局所的な特徴の抽出に優れている。

④その他の要素


  • 正則化手法: 過学習を防ぐために、ドロップアウトや重みの正則化が適用されることがある。

最適化アルゴリズム: モデルの訓練には、AdamやSGD(Stochastic Gradient Descent)などの最適化アルゴリズムが使用される。 トランスフォーマーベースのLLMは、その能力と効率性により現在最も一般的に使用されているが、上記のような様々な構成要素やアーキテクチャの理解も、自然言語処理の領域においては重要である。

 

3.GPTのアーキテクチャ


GPT(Generative Pre-training Transformer)は、OpenAIによって開発された大規模な自己教師あり言語モデルである。GPTシリーズのモデルは、広範なテキストデータを用いた事前学習と、特定のタスクに関連する小さなデータセットでの微調整を組み合わせることで、多様な自然言語処理(NLP)タスクに対応する。GPTのアーキテクチャは、主に以下のコンポーネントから構成されている。


・トランスフォーマーのデコーダーアーキテクチャ GPTは、トランスフォーマーアーキテクチャのデコーダー部分のみを使用している。ただし、典型的なトランスフォーマーデコーダーと異なり、GPTはエンコーダー-デコーダー間のAttention機構を使用しない。代わりに、シーケンス内の前のトークンから情報を集約するself-Attention機構のみを利用する。これにより、GPTは与えられたテキストのコンテキストを考慮して次のトークンを予測することができる。


・層正規化と位置ごとのフィードフォワードネットワーク 各Self-Attention層の後には、層正規化(Layer Normalization)が適用される。これは、モデルの学習を安定させ、収束を早める効果がある。さらに、位置ごとのフィードフォワードネットワーク(Position-wise Feed-Forward Network)が各層に続き、非線形変換を提供する。


・位置エンコーディング GPTでは、入力シーケンスの各トークンに位置情報を提供するために、位置エンコーディングが使用される。これにより、モデルはトークンの順序を認識し、文脈をより効果的に理解できるようになる。


・事前学習タスク GPTの事前学習は、大規模なテキストコーパスを用いて行われる。主な事前学習タスクは、次のトークン予測である。モデルは、与えられたテキストのシーケンスに基づいて、次に来るトークンを予測することを学習する。


・微調整 事前学習を終えたモデルは、特定のNLPタスク(例えば、文章生成、要約、質問応答など)に微調整される。微調整では、タスク固有のデータセットを使用して、事前学習されたモデルの重みをさらに調整する。微調整により、GPTは様々なタスクにおいて高い性能を発揮することが可能になる。


・出力層 GPTは、様々なタスクに応じて出力層を変更することができる。例えば、テキスト分類タスクでは、ソフトマックス層が最終出力として使用されることがある。 GPTはその柔軟性と強力な言語生成能力により、自然言語処理の分野で広く利用されている。GPT-3,4のような後続のモデルでは、さらに大規模なデータセットでの事前学習と、より洗練されたアーキテクチャにより、性能が大幅に向上している。


 

4.ニューラルネットワーク以外の要素


ニューラルネットワークの構造ではAIモデル、特に言語モデルのアーキテクチャにおいて、フィードフォワードニューラルネットワーク(FNN)の部分は重要な構成要素の一つであるが、AIの「知能」や能力の全てを担っているわけではない。例えば、GPT(Generative Pre-trained Transformer)のようなトランスフォーマーベースのモデルでは、以下のような複数の要素が組み合わさって高度な自然言語処理能力を実現している。 ・自己注意(Self-Attention)機構 GPTや他のトランスフォーマーモデルの核心的な特徴であり、入力テキスト内の各単語が他の単語とどのように関連しているかをモデル化する。この機構により、モデルは文脈を広範囲にわたって捉え、より正確な言語理解を実現する。


・ポジショナルエンコーディング Self-Attention機構は基本的に順序を無視するため、GPTのようなモデルではポジショナルエンコーディングを通じて単語の位置情報を入力に追加する。これにより、単語の順序も考慮した言語理解が可能になる。


・層状構造(Layered Architecture) GPTでは、自己注意層とフィードフォワード層が複数回重ねられている。この層状構造により、モデルは複雑な言語パターンを学習することができる。


・レイヤーノーマライゼーションと残差接続 各Self-Attention層とフィードフォワード層の後には、レイヤーノーマライゼーションが適用され、さらに残差接続が行われる。これにより、深いネットワークでも学習が安定しやすくなる。


・事前学習と微調整 GPTのようなモデルは、大規模なテキストコーパスで事前に学習され、その後特定のタスクに合わせて微調整される。この2段階の学習プロセスにより、一般的な言語理解能力とタスク特化の能力の両方をモデルに持たせることができる。 これらの要素が組み合わさることで、GPTのようなトランスフォーマーベースのモデルは、文章生成、機械翻訳、質問応答など、多様な自然言語処理タスクにおいて優れた性能を発揮する。したがって、FNNはモデル全体の一部を形成する要素であり、AIの「知能」はこれらの要素が総合的に機能することによって実現される。


*「層」レイヤーの解説


ニューラルネットワークにおけるレイヤーの種類 ニューラルネットワークには、様々な種類のレイヤーがあり、それぞれ特定の役割を持つ。

  • 入力層(Input Layer): モデルへの入力データを受け取る最初のレイヤーである。

  • 隠れ層(Hidden Layers): 入力層と出力層の間に位置し、データの特徴抽出や変換を行う一連のレイヤーである。深層学習モデルの「深さ」は、これら隠れ層の数によって決まる。

  • 全結合層(Fully Connected Layers)/密集層(Dense Layers): すべての入力がすべての出力に接続されているレイヤーである。

  • 畳み込み層(Convolutional Layers): 画像などのグリッド状のデータから局所的な特徴を抽出するレイヤーである。

  • 再帰層(Recurrent Layers): 時系列データやシーケンスデータの依存関係を捉えるためのレイヤーである。

  • 自己注意層(Self-Attention Layers)/トランスフォーマー層: トランスフォーマーモデルにおける重要なレイヤーで、シーケンス内の各要素が他の要素とどのように関連しているかを捉える。

  • 出力層(Output Layer): モデルの最終出力を生成するレイヤーで、タスクに応じて設計される(例: 分類タスクではソフトマックス関数を用いたレイヤー)。

レイヤーの機能 各レイヤーは、重み(Weights)と呼ばれる学習可能なパラメータを持ち、これらの重みは訓練プロセス中に最適化される。レイヤーを通過する際、入力データは重みと組み合わされ、活性化関数によって非線形性が導入されることで、次のレイヤーへの出力が生成される。


 

5.ニューラルネットワーク上のTransformerの各レイヤー


トランスフォーマーモデルは、自然言語処理(NLP)タスクにおいて革命をもたらしたアーキテクチャである。ここでは、一般的なニューラルネットワークのレイヤー概念にトランスフォーマーの処理技術を当てはめて説明する。


①入力層(Input Layer)

  • トークン化と埋め込み(Tokenization and Embeddings): トランスフォーマーモデルの入力層では、まずテキストをトークン化し、それぞれのトークンを埋め込みベクトルに変換する。この埋め込みベクトルは、単語の意味的な情報を数値的に表現したものである。

②隠れ層(Hidden Layers)

  • 自己注意層(Self-Attention Layers): トランスフォーマーの核となる自己注意層は、入力シーケンス内の各トークンが、他のすべてのトークンとどのように関連しているかを計算する。この情報を用いて、文脈に応じた各トークンの新しい表現を生成する。

  • ポジショナルエンコーディング: トークンの位置情報を埋め込みベクトルに加算することで、トランスフォーマーは単語の順序情報を保持する。

  • フィードフォワードネットワーク(Position-wise Feed-Forward Networks),自己注意層の後、各位置のトークン表現はフィードフォワードネットワークを通過する。これは、さらなる非線形変換を提供し、言語理解を深める。

③出力層(Output Layer)

線形層とソフトマックス関数: トランスフォーマーの出力層では、最終的な隠れ層の出力を特定のタスク(例えば、翻訳、テキスト生成)に対する予測へと変換する。これには通常、線形変換層の後にソフトマックス関数が使用され、トークンの確率分布を出力する。


 

6.その他の要素


  • レイヤーノーマライゼーション: トランスフォーマーでは、自己注意層とフィードフォワードネットワークの各出力にレイヤーノーマライゼーションを適用する。これにより、学習プロセスの安定性が向上する。

  • 残差接続: 各サブレイヤー(自己注意層やフィードフォワードネットワーク)の入力は、その出力に加算される。これにより、より深いネットワークでも勾配が消失しにくくなる。

トランスフォーマーのアーキテクチャは、これらの技術を組み合わせることで、長距離の依存関係を効率的に捉え、文脈に応じた高度な言語理解を実現する。その結果、トランスフォーマーベースのモデルは、機械翻訳、文章生成、要約作成など、多くのNLPタスクで優れた性能を示している。


 

7.まとめ


本記事では、ニューラルネットワークの観点からGPTのアーキテクチャとその要素について解説した。GPTに代表されるトランスフォーマーベースの大規模言語モデル(LLM)は、事前学習と微調整の2段階の学習プロセスを通じて、多様な自然言語処理タスクに対応することができる。GPTのアーキテクチャは、Self-Attention機構、ポジショナルエンコーディング、フィードフォワードネットワークなどの要素を組み合わせることで、文脈に応じた高度な言語理解を実現している。


また、ニューラルネットワークにおけるレイヤーの種類と機能についても解説し、トランスフォーマーモデルの各レイヤーがどのように言語処理に寄与しているかを説明した。トランスフォーマーのアーキテクチャは、自己注意層、フィードフォワードネットワーク、レイヤーノーマライゼーション、残差接続などの技術を組み合わせることで、長距離の依存関係を効率的に捉え、文脈に応じた高度な言語理解を可能にしている。


GPTに代表されるトランスフォーマーベースのLLMは、自然言語処理の分野に大きな変革をもたらし、機械翻訳、文章生成、要約作成など、多くのタスクにおいて優れた性能を示している。今後もLLMの研究は進展し、より洗練されたアーキテクチャと学習手法の開発により、自然言語処理技術のさらなる発展が期待される。


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